
今回紹介するのは「リーンの翼」です。富野由悠季監督が制作した「聖戦士ダンバイン」の派生シリーズの一つとして制作されたインターネットテレビにて配信されたWebアニメ作品です。今年で20周年を迎えます。
基地に近いアパートに住む「エイサップ鈴木」はある日、米軍と山口県警から追われる羽目になってしまいます。
同じアパートに住む「朗利」と「金本」がロケット弾を米軍基地に打ち込んだのです。
エイサップはバイクで逃げる最中、海中から光が溢れ出すのを目撃します。光の中から姿を見せたのは戦艦でした。しかも、空を飛んでいて虫の足が生えている変わったデザインの戦艦。
戦艦には異世界「バイストン・ウェル」にある「ホウジョウ国」の姫「リュクス」が乗っていました。
彼女は不思議な光る靴を履いており、初めて会ったはずなのに何故かリュクスにエイサップは自分の名前を言い当てられます。
戦艦はもう一隻出現しており、戦争が始まってしまいます。
海と大地の狭間にある世界バイストン・ウェルと地上世界を舞台に世界を繋ぐ力「リーンの翼」に招かれた少年・エイサップ・鈴木とホウジョウ国王リュクス・サコミズの恋と冒険の物語が始まります。
今作は「聖戦士ダンバイン」や小説「オーラバトラー戦記」と同じ世界設定火垂るの墓はいますが、パラレルワールドとして描かれている作品。
リーンの翼とは伝説の光の翼を持つ者の事で、6500年前からバイストン・ウェルの世が乱れた際に、その度に現れる存在たちの事です。羽が生える場所は靴だったり、背中だったりと不安定だったりします。
また、今作は大日本帝国海軍特攻隊だった「迫水真次郎」が戦争中にバイストン・ウェルに飛ばされてしまい、いざ現代の日本に戻ってきたら日本がコンクリートの建物ばかりになっているのを見て日本はアメリカに乗っ取られてしまったのか?と取り乱す、という第二次世界大戦に関する描写が強く描かれているので見る際は注意が必要です。
ジブリ作品の「火垂るの墓」程ではないのですが、見ていて痛々しい描写があるので人によっては一回見たら十分、となるかもしれません。
富野さんは昭和16年生まれで歴史論、太平洋戦争で負けた日本で受けた義務教育論を学び、今までの日本は忘れましょう、全部民主主義で行きましょう、という学習をされていた世代の方なのでそういった経験もリーンの翼には含まれています。
そういった経験があったので民族的な土壌みたいなものを踏まえてきっちりこつこつと自信を持ってファンタジーを描きづらかった、と発言していました。
富野節が強力な作品でもあって、わかりづらい所もあります。
「お前は膝で俺を殴ったんだぞっ!?」とか「鈴木君には政治を司る新しい聖戦士をやってくれ!」などがそうですね。見ていると理解するのに時間が掛かるかもしれません。
また、エイサップの友達である朗利と金本がかなり凶悪なテロリストとして描かれていて見ていて不快な部分もあります。
朗利は不鮮明な混血という設定で富野さん的には民族問題を作中に盛り込みたかったのですが、この二人に比重を置きすぎてしまいました。
表現が難しく単一の血ではないという事は日常では当たり前な事でドラマ的にその部分は描く必要がないだろう、という事になり、民族問題を描くのを避けてしまいました。
それでリアルからかけ離れた描写になってしまい、現実の人権や民族の問題が絡んでいるために朗利と金本を簡単に悪人にする事ができなくなってしまいました。
彼らを純粋に悪人として描けば物語としては勧善懲悪となってわかりやすかったかもしれませんが、富野さん的にはそこまでフィクション的にしたくはなかった。
現実に配慮しなくちゃいけない事が出てくると作劇を間違ってしまう典型だ、もっとアニメに徹すれば良かった、と富野さんは後悔しているところもあります。
富野さんは自分に厳しい方なので、リーンの翼は自分の中で現実っていうのがこういうものだっていう自己正当化を先にしてしまって、わかるお話を組んでない、シンプルな行動線を持ち得なかった。
この程度の瞬間風速を描き分けるかもしれないっていう自惚れがあった、こういう作り方をしてしまうのは修練が足りないな、と反省していました。
エイサップ・鈴木は聖戦士としてバイストン・ウェルに呼ばれた岩国のフリーターの少年。
日米のハーフである事以外は普通の今時の巻き込まれ体質の若者。
聖戦士として戦っていく事で死者の魂の重さを哀しみをもって受け止められる優しさを開花。
リュクスと出会う事で今までぼんやりとしていた自我の明確な輪郭を意識するようになり、普通であったが故にサコミズ王の恩讐やジャコバの思惑とも等身大で向き合う事もできて、多くの報われない魂に救いをもたらす新世代の聖戦士となっていきます。
サコミズ王は70年前にバイストン・ウェルに降り立った元旧日本軍の特攻隊員。
やがて聖戦士としてホウジョウ国を築き栄華を誇りますが、それでも地上世界へと恋しさは捨てきれず、断ち切れない。特攻隊員として死に切れなかったという無念を振り払う事はできずに非道な手段で夢の実現を果たしますが、彼はバイストン・ウェルにずっといて現代知識が止まってしまっています。
米帝の横暴を憎み、祖国を憂う姿勢はそのままなのでいざ現代の日本に来た彼は現代のコンクリートジャングルとなった日本が受け入れられかった。
そんな彼がどうやって当時の人たちの愛を理解し、今の日本を受け入れる事になるのか?というのがリーンの翼の肝の部分です。
エイサップは聖戦士としての務めを果たせるのか?気になった方はちょっと内容がえぐくて人を選びますが、見てみて下さい。それでは!